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あしなが育英会「お母さんの作文集」「星になったあなたへ」を読む。  神・仏なき時代、多くの寄付行為は現代の御布施・寄進の一環かも?

更新日:8月5日

あしなが育英会「お母さんの作文集」「星になったあなたへ」を読む。

 神・仏なき時代、多くの寄付行為は現代の御布施・寄進の一環かも?


 夏休みはなくて良い?

 夏休みは子どもたちにとって楽しいものと、当たり前に信じていましたが、よく考えると、必ずしもそうではないとわかります。

 事実、困窮家庭の子育て支援を行っている認定NPO法人「キッズドア」が2024年6月に行った調査(回答数・約1400世帯)によると、小・中学生がいる家庭で「夏休みはなくて良い」という回答が13%。「今より短いほうがいい」が47%と、6割の家庭が夏休みが来ることを負担に感じているとの実態が明らかになっています。

 物価の上昇する中、余計に生活費がかかること、子どもに旅行等の特別な体験をさせる余裕がないなど、経済的な理由が背景になっています。

「夏休みはなくて良い」という6割のうち、母子家庭、父子家庭など親のいない子どもがどのくらいかはわかりませんが、母の日・父の日なども複雑な思いで迎えていることは、想像に難くありません。

 この7月から、テレビで公益社団法人「ACジャパン」のTVコマーシャルが流れています。

 2024年度ACジャパン支援広告キャンペーンで「がんばれ全国のすずめたち。」とのコマーシャルは、人気アニメ「すずめの戸締り」をもとにしたもの。高校生すずめは、幼いころ、震災で親を亡くてしているからです。

「ACジャパン」のTVコマーシャルは、親を亡くした子どもや、親が障害者で十分に働けない家庭の子どもたちを支える活動を行っている一般財団法人「あしなが育英会」のためのTVコマーシャルです。

 あしながさんの呼び名は、アメリカの児童文学「あしながおじさん」から来ています。

孤児院で育った主人公の少女が、匿名の支援者(あしながおじさん)の愛と善意によって大学を卒業する物語です。

 「父の日にお父さんはいない」

 日本では1964年に始まった同育英会は、今年で60年になります。

 いつのころからか、定期的に機関紙「NEWあしながファミリー」などが届きます。たまに募金をしてきた関係で、知らないアフリカの奨学生から御礼のハガキが届いたこともあります。

 街角・駅前などでの街頭募金キャンペーンなども、たまに見かけたりするとき、自分も「あしながさん」なんだと、不思議な気分になります。

 先日は「あしなが育英会」から『星になったあなたへ』(遺児のお母さんの作文集)と『「父の日にお父さんはいない』(親を亡くした子どもたちの作文集)が届きました。

 機関紙「NEWあしながファミリー」に案内が出ていたので、スマホのQRコードで申し込んでいたものです。

 2冊の小冊子に添えて「お母さんと子どもの思いに関心をもっていただき、ありがとうございます」との言葉とともに、お願いとして「お母さんや子どもたちへメッセージをいただけませんか」とあり「返信用封筒」が入っていました。

『父の日にお父さんはいない』の「はじめに」は、あしなが育英会・玉井義臣会長の次のような子どもの詩で始まります。

「ぼくの大すきだったおとうさま ぼくとキャッチボールをしたが 死んでしまったおとうさま もう一度あいたい おとうさま ぼくは おとうさまのしゃしんを見ると ときどきなく事もある だけど もう一度あいたい おとうさまと呼びたい けれど呼べない

 1968年(昭和43年)、交通遺児の中島穣君がテレビのワイドショーで、作文『天国にいるおとうさま』を、涙ながらに朗読した。私がレギュラーで出ている『桂小金治アフタヌーンショー』のテレビスタジオも、全国の茶の間も、涙、涙、涙であった。一人の遺児の詩が、交通事故の悲惨さを語りつくし、国民の心を動かした」

 あれから50年以上経った現在、なお作文集には「父の絵は描けない」「父のいない父の日」「父の日がとても悲しいです」といった子どもたちの声があふれています。

「星になったあなたへ」

 もう一冊の『星になったあなたへ』は、初めてのお母さんたちの作文集です。

 第1章「天国のあなたへ」、第2章「星に願いを」、第3章「最後のプレゼント」のどの一編にも、遺児家庭のお母さんたちの真実の思いが綴られています。

「いつか笑顔で」(兵庫県・52歳)の表題の一編は「あなたとお別れして、もうすぐ8年だね。病気が発覚して闘病生活が始まった日から数えると、もう15年になるよ」と、夫に語りかけるような口調で「私はあなたの死を二度経験したと思っている」と書いています。夫が病気で心が壊れてしまった心の死と物理的な体の死です。

 2人の子どもがいて、今度は自分の心が壊れていく中で、ついに夫がこの世を去りました。そのとき彼女は「ごめんなさい。私正直ほっとしてしまった」と、そのときの思いを書いています。それは、もちろん2人の子どもがいて「今はあなたに感謝しているよ」という思いがあってこそ、言える言葉です。

 あるいは「21年ぶりのパパへ」(東京都・62歳)は「パパが突然いなくなってしまって、もう21年も経つんですね。私にはまだ、昨日のことのように思えます。何年経ってもパパのことを考えると涙が出てしまいます」と始まります。

 暑い夏の夜、釣りに行ったまま、二度と帰ってくることはなかったのです。

 14歳の長男を筆頭に、次男が11歳、三男が9歳、四男が8歳、長女が2歳11カ月で、5男は生後9カ月です。6人の子どもたちと、どうやって生きていったらいいのか。

 厳しい現実が押し寄せてきたある夜。子どもたちに「回転ずし食べに行こうか?」とクルマで連れ出して、どこかで思いっきりアクセルを踏んで、海に突っ込もうと思っていると、突然長男が「やっぱり嫌だ。死にたくない」「誰か助けて。お母さんに殺される!」

と叫んで、彼女は子どもたちを殺さずにすんだと書いています。

 いまは幸せだからこそ、書ける真実の声ですが、医者になった長男をはじめ、彼らの進学にあしなが育英会が力になったと思うと、改めてあしなが育英会の60年の活動が、地道ではあっても、尊いものだと実感されます。

 いずれの作文も、大した苦労もせずに、大学に行き、ノホホンと育った人間には、自分とは無縁な文学作品を読むような、不思議な印象です。同時に、その真実の言葉に嘘がないこともわかって、思わず涙が頬を伝います。

 2冊の作文集を開くと、ACジャパンのテレビCM「がんばれ全国のすずめたち」の本当の姿を見ることができます。みなさんにも、一読することをお薦めいたします。

 神・仏なき時代と言われて久しいものがあります。そんな中、多くの寄付行為は現代の御布施・寄進の一環かもという気もしてきます。


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