@タイムス情報 SDGsの決定版となる国産技術の開発(名古屋)
あらゆる有機物を電子分解する装置・砂漠を緑化する特殊ゲル水
スゴイ会社、スゴイ技術がある!
2022年10月7日、名古屋に来ているという株式会社「ウエルネス」の野村修之社
長から電話があった。
「類は友を呼ぶ」ということか、ウエルネスには最先端技術に関する情報がいろんなルー
トから入ってくる。そのいくつかは実際にコラボレートすることによって、商品開発に生
かされている。
今回は「名古屋にすごい会社、すごい技術があるので、取材して、技術をクルマ関連企
業の社長につなげてもらえたら」ということであった。
最先端技術は結果が出ていても、再現性はさておき「科学的な裏付けがない」とか「導
入実績がない(だから新技術なのだが)」とか、保守的な日本企業・ビジネス社会では、
なかなか日の目を見ないといった苦労がつきものである。
野村社長がすごい会社という株式会社「日本コストマネジメント」(水谷一郎社長)が
取り組んでいるテーマは、SDGsの時代を意識した「先端技術による地球環境改善の提
案」である。
具体的な技術は有機物分解装置「e-Resolver」(すべての有機物を環境負荷
なく分子レベルに分解する世界初の装置)と、特殊水「e-Gel」(砂地への散水を農
地並みに可能にし、砂漠の緑化を可能にする特殊媒体。表面を湿潤に保ち、飛砂を防止す
る)ものだ。
特に、今回、実際に見てきた「e-Resolver」(水素ラジカル法)は、通常は
処理できないFRP(繊維強化プラスチック)も処理できる、タイヤも処理できて、残り
は燃えないワイヤーとカーボンだけになる。CO2を排出しない、まさに画期的な技術だ
ということである。
現在、多くの廃棄物が分別され、資源としてリサイクルされていると思われているが、
実際には集められた資源の大半は処理できず、あるいは処理が追いつかずに、野積みにさ
れたりしているのが実状である。
ペットボトル一つとっても、その多くは表のフィルムを剥がし、キャップを取るなどの
手間がかかるため、処理できないまま産業廃棄物となっている。
廃棄物処理の現場では一事が万事その調子で、様々な処理技術の開発が進められている
が、いまだ理想的な処理技術はないといった課題を抱えている。
そんな中、あらゆる有機物を処理できて、最終的に炭素になる装置こそ、夢のような処
理装置である。
「まさか!」とか「本当か?」という思いになるのも、これまで似たような装置が開発さ
れたと言っては、実はFRP処理はできないとか、タイヤの処理はできない、ウレタンは
無理など、技術面と同時にコスト面での課題もあって、決定的な装置はないというのが実
状だからである。
だが「百聞は一見に如かず」である。早速、名古屋に行って、株式会社日本コストマネ
ジメント水谷一郎社長の話を聞いてきた。
話を聞いて思い浮かべたのが、実際に古タイヤの処理について、長年、炭化装置の研究
に取り組んできた自動車リサイクル業「会宝産業株式会社」(本社・石川県金沢市)の近
藤典彦会長である。
「タイヤの炭化装置は完成しましたか?」と尋ねると、広島工業大学工学部の田中武教授
(電子情報工学科)と、ある実験装置を見に行く予定だったが「故障で延期になった」と
いうことであった。
その装置がどのようなものかはわからないが、水谷社長から聞いた話を伝えたところ、
早速、確認のため、実証実験機がある愛知県大府市に行くことになった。以下はその報告
である。
タイヤの電子分解試験報告書
当日は、事前に用意されたフォークリフトタイヤの分解処理を行った。後日、届いた報
告書は「フォークリフトタイヤの電子分解試験」となっている。
試験の概要に関して「目的」は焼却処理困難物質であるタイヤをe-Resolver
により電子分解できることを確認することだ。
「試験試料」はフォークリフトタイヤ(ソリッドタイヤ)3本、28キロ ポリエチレン
レジン1・2キロ。
「試験結果の詳細」に関しては、報告書のデータにグラフが掲載されており、炉内の状況
に関して、タイヤ投入時と焼却後の写真が掲載されている。
「試験結果」に関しては、次の通り。
写真に示すように炉上部にセットされたフォークリフトタイヤ3本は、補強用ワイヤー
を残して電子分解された(ホイールも樹脂製)。分解・崩壊した残渣は炉下部トレーに落
下。炉上部に見受けられる残渣より、大きなかたまりが下部トレーには見受けられる。こ
れは下部トレーにおいてはラジカル化した水蒸気が上面からのみ接触することから、分解
が限定的に行われたことによるものと思われる。
電子分解後の「有価物」は、補強用ワイヤー、放出されたカーボン。
ポリエチレン(PE)は、100度C前後で溶解して、比較的低い温度で電子分解を開
始することから、分子間結合力の強い物質の分解促進材としての役割が確認された。
最後に「考察および課題」として、
1.シャワーにより分離されたカーボンは容易に分解資源化が可能と思われる。シャワ
ー工程に至る前のカーボンの回収装置の追加を検討する必要がある。
2.電子分解率を向上させるための対策 → 許容温度上限(1000度C)を実現す
るための制御を検討する。
3.分解開始までの時間短縮 → 炉内熱の放出抑制を検討する。
というもので「考察及び今後の展開」について「課題」は、残滓の分析による有価物の
確認(手配済み)と分解のさらなる効率化。排気ガス分析による法適合の確認である。
「今後の展開」は、小型実証機(新規製造)によるアカデミックアプローチを実施すると
いうものだ。
課題はあるとはいえ、結果は実証実験のレベルを超えている。残る問題は、産業化のた
めの改良を加えた完成品を製作するための資金と協力者である。
貴重な地元の協力企業
大府市の実証試験場は、畑が広がる農地の一角にある。目印は畜産施設らしき建造物と
ビニールハウスである。
その元・牛舎脇に、10年がかり、7代目という実証実験プラントが並んでいる。
土地の所有者は大府市で産業機械、電気設備の設計・施工などを手がける有限会社「林
田電気システム」(林田秀治社長)で、趣味で、馬や山羊、羊やクジャクなどの動物を飼
っているという。趣味が高じてか、観光農園事業にも参入を発表しているというユニーク
な企業である。
畜産施設に付き物のサイロは、現在はただの飾りである。水谷社長が殺風景なので「ど
うせならウクライナカラーにしたら」と助言したところ、青と黄色に塗られている。そん
な遊び心もある。
日本コストマネジメントの技術の可能性を認め、完成後、プラントの設置を行うことを
条件に土地の他、電気設備などを提供している。
実証実験プラントの製造は、やはり分解装置の可能性を認めた産業機械などをつくって
いる豊橋市の鉄工所・株式会社「大栄製作所」(森田雄次社長)が担当することによって
現在、実証機としては最終段階の第7世代目の全有機物分解装置が実現している。
同プラントの技術は、研究開発の価値を共有する協力者がいて、ほぼ完成品の処理装置
が実現したわけである。
唯一無二の特殊セラミック触媒
分解に不可欠な触媒は、ツヤツヤした黒い小石のような物質である。
最先端の量子力学理論を駆使して開発した世界で唯一無二の特殊セラミック触媒(e-
Stone)は、両極性を持った半導体の性質を持っていて、還元反応によって、有機物
を分子レベルに分解処理できる。
この特殊セラミック触媒は、電子の出入りを制御することで、水分子の不安定化(ラジ
カル化)を引き起こす。その強力な還元作用を利用することによって、様々な有機物を分
解するというものである。
e-Stoneは水谷社長の友人であるNASAにいた研究者が開発した技術である。
その技術をもともと世界企業のTRWジャパンに勤務後、独立した水谷社長が、実用レベ
ルの有機物分解処理装置として、システム化し、ほぼ完成型にしたわけである。
開発はすでに最終段階にあり、現在の実証機が完成したのが、2022年。6月ごろか
ら現在地でテストをスタート。不具合など改良を加えて、最終段階にある。
現在、様々な企業から廃タイヤ、FRP、ウレタン等、処理できない廃棄物の分解テス
ト及び見学を受け付けている状況だという。
「みなさん困っているタイヤ、それからFRPも処理できますから、いろいろなテストを
行っています。クルマのボディは鉄板ですけど、F1は全部プラスチック製です。現在は
大量に廃棄物が出たときに処理できないから,まだクルマには使えないわけです。FRP
製のプレジャーボートの場合は、重機で無理やり破壊して埋めているだけです。処理費用
が大変なんですけど、e-Resolverだと残るのは、軽いガラス繊維だけ。処理さ
えできれば、クルマのボディを鉄板からFRPに替えることで、燃費が10%ぐらい削減
できるわけです」
と、水谷社長は廃棄物処理分野で、いわば革命的な構造変化を起こす可能性を語る。
タイヤの処理に関しては、ミシュランがプロジェクトを立ち上げており、何とかその前
に完成させて、処理実績を重ねたいと考えているようだ。
完成を急ぐには、さらなる協力者が必要となる。
実際にテストをして見せても、廃棄物処理に苦労している大手は、例えば顧問の大学教
授や有識者が理論等を理解できないため、怪しい技術として採用には至らないまま「装置
が完成したら、ぜひ自分のところの廃棄物も処理してほしい」という対応ばかりだとか。
画期的なベンチャーの苦労は、どこでも似たようなものである。
小型の有機物処理装置
水素ラジカル法による処理装置は熱分解の一種だが、水分子をラジカル化することによ
り、有機物分子を直接、物理的に分解する。処理物は基本的に水と炭素(C)に分解され
CO2、ダイオキシンを排出しない。
「従来比1/3の装置コスト、1/5のランニングコストと、1/2の残渣量」と、高い
経済性を特徴にしているように、処理速度も焼却炉に近く、建設・ランニングコストも安
価のため、現時点でもっとも優れたゴミ処理方法となっている。
実験グラフを見れば明らかなように、当初の熱源は電気ヒーターを使っているが、分解
が始まる200度程度まで上昇した段階で、ヒーターのスイッチを切っている。後は自己
発熱で温度が上昇していく。15日の実験では最高800度まで上昇している。
他の処理装置とのちがいについては、明らかな優位性がある。
会宝産業の近藤会長が考えている炭化装置に関するアドバイザー的立場の田中武教授は
実証機を目にして、すでに実証実験のレベルではないことを理解したようだ。まさか、こ
こまで完成の域に達しているとは思っていなかったようで「感動しています」という言葉
を使って、10年近くかけて、よくも完成品に近いプラントを造り上げたものだとの驚き
を表現していた。
同時に、電子並びに半導体の専門家として「電子という言葉は使わないほうがいい」と
いうアドバイスの他、大手企業、大学機関、行政等を相手にする場合のアプローチに必要
な考え方、手続きなど貴重なアドバイスをしていた。
自ら、大学人として、研究者として、散々苦労してきた立場から、電子という言葉の代
わりに理論は脇に置いて、まずは「ある物質、この特殊なセラミック触媒を使うと、こう
いう変化が起きる」という形で、特許を取るべきだと助言するなど、水谷社長にとっては
強力な助っ人を得た貴重なチャンスとなったようだ。
事実、タイヤの処理は重要だが、装置が大きくなることから、現在、あらゆる産業界が
処理に困っているIC基盤などを処理する小型の装置を最初につくるべきだとの助言をも
とに、早速、プロジェクトが動きだしている。
都市鉱山という言葉があるように、IC基盤には多くの金や希少金属などが使われてい
る。その処理を行うことができて、しかも効率的にリサイクルできるならば、ベンチャー
の研究開発には一石二鳥である。
特殊水e-Gelについては、またの機会にということで、今回の見学は終わったが、
世界を視野に入れたビジネスモデルも、すでにできており、一部海外からの問い合わせや
契約等の動きが進行中である。
「早ければ、来年5月に開催される東京ビックサイトの「環境展」に持っていきたいと思
ってます。そこまで行けば、アッという間に話題になると思うんですね」と、水谷社長は
考えている。
そこまで行けば、日本発の画期的な有機物処理装置e-Resolverが、世界に広
がっていくはずだ。
とりあえずは、小型のe-Resolverの完成並びに今後の展開が注目される。
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