和歌ブームの中で30周年を迎えた「賀茂曲水宴」とは?
京都・上賀茂神社における優雅な1日

令和の和歌ブーム
空前の和歌ブームだと言われています。
今回の「令和の和歌ブーム」の背景には、近年盛んなSNSブームがあると言われてい
ます。個人間のメールのやりとりなど、そのつもりで用いれば、確かに少しは気のきいた
相聞歌になるかもしれません。
日本における和歌ブームは、ある意味、これまで何度もあります。
常に人気があるため、日本の新聞雑誌には和歌の投稿欄があり、多くの同好会誌の他、
和歌専門誌が何冊もあるわけです。
新型コロナ感染症による自粛生活が、ブームに拍車をかけたとの一面もあります。
2022年10月には、万葉集の恋歌を現代語訳した「令和の万葉集」といわれるベス
トセラーも出現しています。人気の決め手となったのが、タイトルの「愛するよりも愛さ
れたい」(佐々木良著/万葉社)との直接的な思いと、訳が奈良弁という意外性です。
そんな和歌ブームですが、今日に至るまで大きな影響力を与えているのが、バブル期に
大ベストセラーとなった歌人・俵万智の「サラダ記念日」です。以後、和歌は文学とは切
り離せないお固いイメージを脱して、決定的に大衆化しています。
タイトルとなったのが、有名な以下の和歌です。
この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日

クローズアップ現代
令和の和歌ブームは、NHKが2023年3月の「クローズアップ現代」でも、特集し
ています。
そこで紹介される和歌は、どれも気が効いているとはいえ、何気ない日常を歌った「サ
ラダ記念日」の流れを汲んでいるように思えます。
事実、同番組で、SNSを舞台にした和歌ブームを象徴する一首として、紹介されたの
が、岡本真帆さんの一首です。
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
この最初の短歌を投稿すると、次々と自分なりの下の句をつくって投稿する人たちが相
次いだというのです。
きっかけをつくった岡本真帆さんは、SNSなどで短歌を発信し続け、2022年に第
一歌集「水上バス浅草行き」(ナナクロ社)を出版。令和を代表する歌人の一人となった
わけです。
番組には「歌人・作家」として、出演しています。
平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ
にぎやかな四人乗車して限りなく透明になる運転手
など、何気ない日常を歌にしています。

五感で楽しむ平安の雅び
4月9日、京都・上賀茂神社「渉渓園」で催された第30回「賀茂曲水宴」に出席して
きた友人からのレポートが届いたので、以下に転載します。

* *
賀茂曲水宴は平安の雅びをいまに伝える、古式豊かな歌会とともに「やまとうた」の魅
力を知ってもらうことを使命に、続けられています。
元々は中国・周の時代に始まったということで「日本書紀」に記載されています。
曲水宴とは曲水(水流)に盃を浮かべて、参加者がお題に沿った歌を作り、酒を酌むと
いうもので、平安時代に朝廷や貴族の私邸で盛んに催された宴です。
上賀茂神社では神主・重保が841年前(寿永元年1182年)に催したのが最初です。その後、室町時代後期に細川高国が、境内で和漢連句の曲水宴を行っています。
今日の曲水宴は、1960年、皇太子殿下(今上天皇)御生誕奉祝事業として、歌人・
吉井勇、画家・堂本印象等を招いて行われ、その後、中断していたのですが、1994年、
皇太子殿下御成婚並びに第41回式年遷宮、平安遷都1200年奉祝事業を機に「賀茂曲
水宴」として復興。本年、記念すべき第30回目を迎えたというわけです。
会場である渉渓園は、今上天皇陛下御誕生の奉祝事業として、曲水宴を復活するに当た
って、それに相応しい平安時代末期頃の庭園として設計されたものです。
式次第では、宴の開演は午後1時ですが、平安の雅びな世界は、その30分前から始ま
っています。
とはいえ、歌会もまた神事ですから、宮司以下諸員は御祓いの後、本殿参拝へと向かい
ます。
その間、会場である渉渓園では、平安・鎌倉時代の和歌に関する披講が「冷泉家時雨亭
文庫」講師により行われています。披講とは歌会などで作られた和歌を、その場で披露す
るもので、古人は和歌を目で読むだけではなく、耳からも聴き、薫物(たきもの)の醸す香
りとともに、五感で楽しむという行事を、いまに伝えるものです。
宴席には王朝の香り「薫物」として、本年は朱雀天皇のもっとも高価な沈香を多く用い
た「黒方(くろぼう)」をもとに調整した薫物が用いられています。
そうした平安朝の優雅な薫りが流れる中、歌会は進行していくわけです。

世界のHAIKU、世界のWAKA
今回の献詠歌の題は「早蕨(さわらび)」です。宮中歌会始選者の永田和宏、三枝昂之
氏などの歌人とともに、一般募集献詠歌への応募者274首の中から選ばれた優秀歌の平
田わか子氏のもとに、一人ずつ曲流に浮かべた盃を童子が歌人のもとに届けます。
現代の慌ただしさとはちがう時間が流れて、雅楽の演奏とともに、何ともにゆったりし
た平安の世を模した宴が進行します。
そんな中、平田氏の優秀歌が歌いあげられます。
さわらびが こんなところに振り向けば ああそうなのだ あなたがいない
まさに「命の洗濯」という言葉が相応しい一日を過ごすことができます。
平安の雅びは、一朝一夕には身につきません。
やがて7月6日の「サラダ記念日」がやってきますが、その和歌の影響は、いまなお大
きなものがあります。
* *
以下は「加茂曲水宴」を見た友人が「ナンセンス和歌」として送ってきた、いわば「夢」の三部作です。
目覚めれば夢の続きがわからない 夢なればこそ覚めてはアカン
夢ならば覚めるに越したことはない 覚めない夢は永遠の眠り
夢は夢覚めない夢などないならば 夢の続きは自らつくれ!
五七五七七=32字の文学世界は、俳句(HAIKU)に続いて、世界の和歌(WAK
A)になる日も近い?

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