撮影禁止!の東武百貨店「アートギャラリー」  『あなたに会えてよかった』出版記念「田村セツコ展」に行く

更新日:4月5日


 撮影禁止!の東武百貨店「アートギャラリー」

 『あなたに会えてよかった』出版記念「田村セツコ展」に行く



 2022年2月23日から、東武百貨店「アートギャラリー」で「あなたに会えてよか

った」と銘打たれた「田村セツコ展」が開催されました。

 同展を訪れた「押し売り詩人」H氏から「ウエルネス@タイムス」編集部に報告メール

が届いたので、以下に転載します。

 彼女を「年上のガールフレンド」と呼ぶH氏は、田村セツコさんとは2020年春に閉

店した新宿のジャズスポット「J」で出会って以来、フラメンコギタリストのO氏ととも

に新宿界隈で「3馬鹿トリオ」と呼ばれてきた長い友人関係にあります。

 押し売り詩人の肩書は、H氏がいつの時代にも詩心が大切であり、特にいまの時代に欠

けているものとして、あえて詩心を掲げて、詩を周りに押し売りしているためです。

           *               *

 手塚治虫が描いた「オミクロン」

 2月22日、東京・町田に住んでいる友人と久しぶりに下北沢に行ったので、町田が実

家であるイラストレーター・画家・漫画家・エッセイストの田村セツコさん(84)に、

一言ことわり(?)のメールを入れた。

 町田に限らず、手塚治虫とかサンリオのキティちゃんとか、彼女に関連する何かがある

と、一応メールなどするのが習慣になっている。

 先日は「手塚治虫の『サンダーマスク』にオミクロンが出てくるって知っていた?」と

メールした。返信は「えっホント?知らなかった(猫マーク)」というものだ。

 ちなみに『サンダーマスク』は、地球征服を企む暗黒宇宙の魔王デカンタに協力する秘

密組織の名前が「オミクロン」で、その目的は増えすぎた人口の削減というもの。50年

前に、現在の人間の肉体を蝕む人体実験とされ、人口削減の疫病を暗示していると、ネッ

トなどで話題になっている。

 その前にも「新潟県立万代島美術館でサンリオ展をやってます」とメールをしている。

「新潟日報」の紹介記事「サンリオ展~ニッポンのカワイイ文化60年史~」にも「水森

亜土、田村セツコら人気イラストレーターのグッズも人気を博した」と書いてあったため

だ。

 彼女とサンリオとの縁は古く、読者の投稿を中心とした機関紙「いちご新聞」の連載な

ど、創刊当初から、テーマこそ変わっているが、いまだに続いている。



 「サンリオ」辻信太郎会長の花束

 メールした翌日、電話があって「今日から東武百貨店のアートギャラリーで個展をやっ

ている」というので、夕方出かけてみた。

 会場は初日とあって、手伝いの女性スタッフの他、元ソニーの技術者だった実弟や辛酸

なめ子さんなども駆けつけていた。

 折角のチャンスなので、いつも新宿「J」ですれ違っていた辛酸なめ子さんの名刺をも

らった。

 さすがセツコさんの親しい友人である。おじさんの名刺のイメージを超越している。

 通常の名刺の半分もないサイズで、名前とメールアドレスに電話とファックスがプリン

トされている。これだけで、連絡並びに原稿の受け渡しはオーケーだ。

 セツコさんの個展に限らず、個展ともなれば通常はお祝いの花束、花環が付き物だが、

ズラリと有名人の花束、花環を並べる趣味は持ち合わせていないようで、今回は入り口に

ポツンと一つだけ飾られている。

 それが、この3月、経営の第一線を退くことを表明、代表権のない名誉会長になる「サ

ンリオ」の辻信太郎名誉会長(94)からの花束である。

 絵や会場より目立っては困るからか「できるだけ小さいもので」というセツコさんから

の要望で、目立たないようで、上品な花束がポツンと置かれている。



 世界共通語「カワイイ」の元祖

 会場に並ぶ彼女の絵の印象は、基本的に昔もいまも変わらない。

 その生活スタイルである元祖ロリータファッション、現在の世界共通語「カワイイ」の

コスプレを先取りして今日に至っている。

 カワイイの他、ハッピー、おちゃめ、魔女、不思議などセツコさんの作品を表すキーワ

ードはいろいろある。

 変わらないようでいて、半世紀以上、プロとしてやってきているぐらいで、当たり前に

絵は特別な力みなどのない素直な彼女らしいものになっている。

 もともと「SDGs」など、縁のないころから、不用になった様々のグッズを絵や作品

の材料にしてきた。ゴミも葉っぱも、あらゆる不用品は彼女の手にかかれば、アートに変

身する。

 魔法使いのおばあさんや不思議な国のアリス、星の王子さまなどに憧れる彼女にとって

は、手にしたもの、目にしたもの、メモしたものすべてが、価値あるアートなのである。

 それこそ、田中角栄(古い?)と同じ血液型B型であり、いかにも彼女らしいのだが、

同時に、どんなものを扱っても、変に崩れることがない。

 ユニークなアーティスト仲間が多い中で、彼女は「どこか地に足がついている。自由な

ようでいて堅実。それがセツコさんの最大の魅力だと思います」と、彼女を新人時代から

ずっと見てきた集英社の担当編集者・宇田川斐子さんが『田村セツコ/HAPPYをつむ

ぐイラストレーター』(河出書房新社)の中で語っている。

 事実「お堅い家庭に育ったのが影響しているのかしら」という彼女の最初の仕事は、銀

行の秘書課勤務である。



 厳格な父から受け継いだ絵の才能

 雑誌『PHP』の連載コラム「心に残る・父のこと母のこと」に、彼女が登場した20

19年6月号を見ると、絵の才能は厳格な公務員として生涯を終えた父親から受け継いだ

ものだとわかる。

 そのコラムで、彼女は「どっちが好き?」というタイトルで両親について書いている。

短いスペースとはいえ、読めば興味深いエピソードとともに、両親の姿が鮮やかに浮かび

上がってくる。

「国家公務員で謹厳実直。寡黙、建前優先」と紹介される父親に対して「お父さんが安月

給だから大変」とか、思ったことをそのまま口にする直球勝負の母親。表題は「お父さん

とお母さん、どっちが好き?」と、よく聞かれて、困ったという話である。

 ちなみに、その答えは「どっちも好き」というものだ。

 一般読者にはいかにもセツコさんの両親らしい様子に、思わず笑ってしまう楽しいエッ

セイだが、当時「田村家の恥を世間に晒した」と、弟妹には不評だったとボヤいていた。

 警察官で、社宅住まい。4人の子どもがいる。要は公務員のため、貧乏だったとか、あ

からさまな表現が身内としては気になるようだ。しかし、必ずしも嘘じゃないのだから、

「プロとしての読者サービスでしょ」と、メールを返したことがあった。

 エッセイに限らず、何に対しても、プロとしての彼女の人柄と相手・読者に対する思い

やりなど、常にサービス精神が全開なのである。

 それはサンリオ「いちご新聞」のマンガ、童話や絵本のイラスト、個展の絵などの作品

全般に当てはまる。



『あなたに会えてよかった』出版記念

『PHP』のエッセイには、父親が「ボケた」という母親の対して、彼女が「大丈夫、ボ

ケてない」と請け合ったというエピソードが登場する。

 両親の晩年、母親から「お父さんボケたみたい。ずっと機嫌が悪くて、口をきかない」

という電話に、あわてて駆けつけたことがあった。

 要は、銀座の画廊で開催中だった彼女と友人の「2人展」に出かけたのだが、帰宅した

父親が「あんな絵に、あんな高い値段をつけて平気でいる神経はおかしい」と言っていた

ようで、彼女は「お母さん、お父さんボケていないわ。その通りですもの」と保証した。

 値段は画商が勝手につけたものだ。

 彼女の思いは、自分のファンである学生でも、お年玉やお小遣いを貯めれば、買うこと

ができる。そんな値段が理想のはずだが、現実はそうもいかない。値段は作者の意向以上

に、プロの画商の裁量分野だからである。

 個展の絵は油彩から代表作を手頃な価格で手に入れられる版画まで、老若男女あらゆる

ファン、階層に対応できるようになっている。

 特に、彼女の作品の一つひとつを見れば、何でもハッピーな彼女の世界観を共有するこ

とで、世知辛い今の時代に、明るい幸せな気分を味わうことができる。

 そして、そのうちの一点でも手に入れて、自分の部屋に飾れば、絵は「心のごはん」と

してエネルギー化する。飾らなくても、持っていることで、心が豊かになる。

 アートの力、絵を所有する効果である。

 それでも手の届かない若いファンたちのために、今回実現したのが、個展と同じタイト

ルの『あなたに会えてよかった』(興陽館)という本だ。

 彼女の手元に残っていた絵のそれぞれに、ちょっとした言葉を添えて本にした。手に取

れば気に入った絵を自分のものにした気分が味わえる一冊である。




 70歳でハッピーリタイア!

 彼女の昔からの担当者が共通して言うことの一つは、彼女の元気さである。

 前出の担当編集者は「タフ」という言葉を使って、新人時代の意外な一面を紹介してい

る。お嬢さん、お嬢さんしている彼女が、徹夜続きのハードワークに、一番頑張り通した

からである。

 いまも元気な彼女は、見た目よりも10歳以上は若く見える。パスポートを見せるとき

とか、生年月日を聞かれると、相手が絶句して、暫し頭が混乱するぐらいである。

 2013年10月に出版された『おちゃめな老後』(Wave出版)の帯には、年齢と

のギャップを強調するためか「75歳。『カワイイ』の元祖」と書かれていた。

 女性に歳を聞くのは失礼だとか、多少の遠慮があっても不思議ではないところから「本

当の歳を書くのは失礼じゃないか」と言う人もいた。彼女の答えは「別に嘘じゃないし」

というものだ。

 そんな真っ当な、飾らない生き方が、多くの共感を得るようだが、もともとの本人の老

後設計は「70歳でハッピーリタイア!」であった。

 その決意を耳にした両親が、同時に「それがいい!」と言ったというのも、今は昔であ

る。

 彼女のサービス精神の根本には、お願いされると基本的に断れない優柔不断に見える優

しさがある。その為、実際には次から次へと仕事が舞い込んできて、忙しさに振り回され

るのが、いまや彼女の“マイペース”と化している。



 アフター5は自分へのご褒美?

 そんな忙しさの中でも、律儀に守っているのが「アフター5」。夕方になったら、お酒

が飲める。1日頑張った自分へのご褒美のようなもの。

 アフター5のお酒は、明日への活力、つまりは未来への投資でもある。

 23日の夕方も、彼女のルーティンの「アフター5」につきあった。

 聞くところによると、実弟は座禅会があるというので、彼女と女性スタッフ2人を交え

た4人で、よく3馬鹿トリオで訪れた「台湾線條餃子専門店」に向かった。

 一抹の不安は店がウナギの寝床のようなので、4人だとちょっと厳しいかもと思ってい

たら「今日、お酒飲めないよ」と、顔なじみの店の女性から言われた。「エッ?」

 何でもコロナ蔓延防止期間中のため、他の店は8時までは提供していたり、まったく無

視していたりという中、台湾出身者の店とあって、届け出での条件などにより、粗相は御

法度のようだ。お酒の提供自体ができないという。「うーん、残念」

 天皇誕生日の23日は、祭日とあって、池袋の裏町も普段のとは様子がちがう。

 仕事場の表参道・原宿界隈とは異なる、寂しい裏通りをとことこと歩いていると、大通

りに出る手前にイタリアンレストランチェーン「サイゼリア」があった。

 3馬鹿トリオのO氏がご愛用のチェーン店で、池袋店も何度か行ったことがある。元気

なときは、エスカルゴとかマッシュルームのアヒージョとか、何度も訪ねたスペインで食

べた思い出の料理を、驚くほどのサービス価格で楽しんでいた。

 本来であれば、奥さんと一緒に個展に駆けつけるところなのだが、1年ほど前、リンパ

種で入院、抗ガン剤を打って、すっかり髪が抜けたと言っていた。その後、仕事を続けな

がら、治療生活を送っていると、風の便りで聞いている。

 10歳上の「お姉さま」セツコさんの元気と健康を分けてあげたいところだが、そうも

いかない。

 代わりに、個展の雰囲気を少しでも感じてもらえるようにと思って、カメラを取り出す

と、百貨店の担当者から「撮影禁止です」と注意された。

「えっ、どうして?」

 新聞・雑誌など多くのメディアで、展覧会や個展の紹介がされている。

 理由はすでに絵を御買上の顧客がいるため、所有者の権利に触れる恐れがあるため。個

人情報保護法に関わるということのようである。

 意外なところで、余計な人生勉強をしてしまった。

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