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「義足のボクサーに会いにいく(東京国際映画祭)」 ウエルネス情報

 「義足のボクサーに会いにいく(東京国際映画祭)」 ウエルネス情報

 「すごい映画ができた!」  世界の映画祭の常連であるフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ監督が撮った「義 足のボクサー(原題GENSAN PUNCH)」が、2021年11月5日、第34回 「東京国際映画祭」のガラセレクション(特別招待作品)部門で上映された。  映画祭が独自に選ぶ話題作の一つとして選定されたものだ。

 その日「ウエルネス@TIMES」記者が「有楽町よみうりホール」で行われたプレミ ア上映会に駆けつけたのは、同映画のエグゼクティブ・プロデューサーの一人である澤繁

実(さわ しげみ)氏(株式会社澤繁実代表)が、ある日本酒のイベントで「すごい映画ができた!」と、興奮気味に語っていたためだ。

 何がそんなに彼を熱くさせたのか、知りたいこともあり「義足のボクサー」に会いに行 った。  すでに釜山国際映画祭の招待作品となっていた映画の内容は知らなかったが、題名を聞 いて、実に現代的なテーマだというのが最初の印象だった。  しかも、メガホンを取るのはカンヌ国際映画祭で監督賞(「キタナイ-マニラ・アンダ ーグラウンド」2009年)を受賞しているメンドーサ監督である。  澤氏が熱く語る言葉を聞いて、思い浮かべたのは黒澤明監督の「影武者」であった。  1980年公開の「影武者」は時代を象徴するテーマだったが、主役の勝新太郎が降板 するといったトラブルもあり、アカデミー賞を取ることはなかった。  その時代に相応しいテーマをどう描くかは、巨匠ならずとも難しい。

 釜山国際映画祭「キム・ジソク賞」 「義足のボクサー」の撮影舞台は沖縄、フィリピンそして福岡。日本とフィリピンの合作 という独特の難しさもある。  映画は義足のプロボクサーとしてフィリピンで活躍。引退後、沖縄で暮らす土山直純氏 をモデルにしている。  プレミア上映会当日、トークショーには土山氏も登場。会場を盛り上げていた。  主人公を演じるのは、全編タイロケという映画「ハブと拳骨」(2007年/中井庸友 監督)でデビュー、日本と海外を行き来しながら活躍する尚玄である。

 母親役に南果歩、トレーナー役にフィリピンの名優ロニー・ラザロ、ジム・オーナーの 娘役にフィリピンの国民的女優ビューティ・ゴンザレスなどの芸達者な面々と、妹役には 映画は初めてというモデルMaaaya(木佐貫まや)など新鮮な顔ぶれが、日本とフィ リピンとの合作映画ということを感じさせない自然な雰囲気をつくりあげている。  事実、映画の成功は韓国の釜山国際映画祭「キム・ジソク賞」にノミネートされ、みご と受賞したことで証明されている。同賞は創立メンバーである故キム・ジソク氏を讃える とともにアジア映画の現代的地位を反映したもっとも魅力的な作品に贈られる栄誉あるも のだ。

 実在するモデル「義足のボクサー」  実在のモデル土山氏は5歳のとき、右足首から下を切断した。それでも、高校時代にボ クシングを始め、2001年には沖縄の平中ボクシングスクールに入門、プロボクサーを 目指した。  日本では義足ではプロ資格が得られなかったことから、フィリピンに渡って夢に挑戦、 プロボクサーとして活躍した。  戦績は5勝3敗1分と、義足のハンデを感じさせないものだったが、チャンピオンには なれず、2015年に引退した。  映画は事実とフィクションが半々だというが、日本では拒絶されたプロボクサーになる 夢に向かって挑戦し続けた土山氏の生き様を通して、人間の尊厳やプライド、そして愛と 友情の在り方を問いかけている。  特に、健常者のものとされてきたプロボクシングの世界に明らかなハンディキャップを 負った「義足のボクサー」というテーマそのものが、極めて現代的であることなど、映画 として興味深い要素が満載である。 「東京国際映画祭」の閉幕あいさつで、安藤裕康チェアマンがフランスの批評家からのコ メントを紹介。映画祭が目指しているものとして「多様性、創造性、世界との連帯だ」と のコメントを伝えている。  しかも、今年の映画祭のテーマは「越境」である。  リアルな演出に定評のあるメンドーサ監督が、冒頭から印象的で迫力ある映像によりボ クシングに賭ける若者の人生を映し出す。日本とフィリピンを舞台としたボクシング映画 が、面白くないわけがない。

 ボクシングの聖地「GENSUN」  映画は2020年1月、フィリピンでクランクインした。  撮影の舞台はフィリピン最南端、ミンダナオ島の最南部ジャネラル・サントス(GEN SUN)。マグロ産業が盛んなことで知られるが、それ以上に有名なのが6階級制覇のボ クシング王者マニー・バッキャオの出身地ということだ。  その後、沖縄ロケ、さらに福岡へと撮影は進められたが、折からのコロナ禍に翻弄され つつも、何とか完成にこぎ着けた。

 メンドーサ監督はボクシングの試合シーンでも、リアルさを追求する。  最初の試合で、1ラウンドに尚玄のパンチが相手に当たって鼻血を出すシーンは、想定 外のパンチだった。まさにドキュメンタリーである。  そのため、本来は3ラウンド目に決着するはずが、1ラウンドで終わってしまった。  そんなアクシデントさえリアルさを出すという意味では、貴重な映像になっている。  母親役の南果歩は、同監督の演出について「ずっとカメラを回していて、俳優にその役 でいることを求めている。素にもどることを求めていなくて、衣装を着て、そこにいる状 態から役の人生が始まっているという感覚でした」と明かしている。  撮影は台本もなく、あっても紙切れ1枚にメモ程度だとかで、その場でどうなるのだろ うといった状態のまま進んでいく。  撮影現場では、俳優は役を演じつつも、役柄なのか俳優個人なのか、その境目がわから なくなる。その分、俳優は自然にそれぞれが役の人物に成りきることになる。  当然ながら、主人公の尚玄もまた「義足のボクサー」に成りきっている。

 真のプロデューサーは尚玄?  7年がかりという映画制作は、もともと出身地の沖縄で、土山氏と親交のあった尚玄が 「いつか映画にしたい」と温めてきたものだ。熱い思い入れがある。  2014年、尚玄のデビュー作のプロデューサーだった山下貴裕氏(制作会社GUM) に提案することによって、映画化は進められた。その意味では、真のプロデューサーは尚 玄と言えないこともない。  トークショーの舞台で、土山氏は「自分は単純に熱く生きたいと思って、ボクシングに に賭けただけで、映画を見て『熱く生きることも悪くないな』と、少しでも感じてもらえ ればと思う」と語っていた。  一人の若者が、夢を実現するため単身フィリピンに渡って、自分の人生を歩んでいく。 尚玄もまた「俳優として活躍の場を求めてアジアや海外を渡り歩いてきた。そんな自分の 人生と主人公の人生を重ね合わせたような、大切な作品です」と語っている。  その言葉が嘘でないのは、母親役の南果歩が尚玄について「全身全霊を込めて、役に取 り組んでいた」と語っている通りである。  映画ではほとんど完全とも言えるボクサーの肉体をつくり上げていたが、役づくりの難 しさについて「ボクシング自体は映画化が決まってから練習しました。体というのはトレ ーニングをすれば、誰でもできると思うので、それよりもメンタルな部分をいかに表現で きるかを心がけた」と語っている。  フィリピンで彼は監督の家に泊まってお互いを理解するための時間を共有し、土山氏か らはボクサーについて、また長崎にいる義足の女性からも、どのような体の使い方をする のか、実に多くの人たちの協力がベースにあって、映画はできあがったという。

 エグゼクティブ・プロデューサー  できあがって見れば、映画は結局のところ監督のものである。  しかし、成功する映画はそれだけでは成立しない。モデルの土山氏、主人公の尚玄、そ してプロデューサーの山下氏、それぞれの熱い思いがあってのものだ。  そしてもう一人が、そうした熱い思いをボクシング及び日本とフィリピンとの関わりの 中で共有したいと思ったエグゼクティブ・プロデューサーの一人澤繁実(さわ しげみ)氏である。  澤氏のホームページにはストレートに経歴がわかるように、一般的な「履歴書」が添付 されている。  純粋な日本人として彼は、防衛大学校に進学。強い男を追求するため、大学のボクシン グ部に入部、オリンピック選手養成学校のボクシング選手と戦って顔面を骨折した経験も

持っている。

 卒業後、幹部自衛隊員としてエリートの道を歩んだ後、次ぎなるステージに行くため、

実業の世界に身を転じ、不動産業と映画プロデューサーとして様々な展開を始める。

 ボクシングには彼なりの思い入れと、業界との縁があることから、今回の「義足のボク

サー」に深く関わることになった。

 パラリンピックが開催され、ダイバーシティ(多様性)が世界標準になる時代である。

「義足のボクサー」が健常者と同じリングに立つのも象徴的だが、同じボクシングのプロ

デビューが日本では拒絶され、フィリピンでは受け入れられる。

 両国のちがいはボクシングに限らず、日本と海外との微妙な違いを浮き彫りにするテー

マの広がりを秘めている。


 社是「人類の未来創造を日本から」  映画祭の行われた有楽町・日比谷地区には、フィリピン独立に取り組んだ国民的英雄ホ セ・リサールの銅像が建っている。  日本とフィリピンの友好のため、澤氏も10月には東京・新小岩で開催された「フィリ ピンEXPO2021」のテープカットに参加。映画「義足のボクサー」の宣伝に一役買 っている。  YouTubeには彼が吠えるように、映画を盛り上げる様子がアップされている。  日本人として、目立つ場所では和服姿の彼は「ワイン(和員)会」などを主宰、和服をほぼ毎日着ている。「株式会社澤繁美」の社是は「人類の未来創造を日本から」である。  頑張っている人を応援したい。何より楽しいことを一緒にしたい。そして、日本人であ ることを自覚しながら、アジアそして世界との友好を進めていきたいとの熱い思いも、映 画のモデル土山氏、彼を演じた尚玄の人生に重なる部分が少なくない。             *              * 「義足のボクサー」はすでにアメリカのHBOから世界配信されることが正式に決まって おり、日本では2022年、全国の劇場での公開が予定されている。 「義足のボクサー」の行方とともに、澤氏がプロデューサーとして参加する、次ぎなる映 画がどのようなものなのか。  すでに彼の構想の中にはあるようだが、その完成が今から注目される。

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