「人民日報(海外版)」で紹介された103歳の現役画家 キャベツを描く「九州派」の巨匠・齋藤秀三郎氏とは?
- vegita974
- 11月3日
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更新日:11月4日
「人民日報(海外版)」で紹介された103歳の現役画家
キャベツを描く「九州派」の巨匠・齋藤秀三郎氏とは?

「人民日報(海外版)」
2015年10月の休日、昔から縁があった日中友好会館に併設された「後楽ガーデンホテル」に宿泊した。地下1階に日本料理の「錦鯉」があって、いまはホテルの朝食会場になっている。入口を入ると、錦鯉の地元・新潟名産の他、錦鯉模様の新潟の酒瓶がずらっと並んでいる。
入口脇のカウンターには、たまに無料のノベルティ類が置いてあって、その日は「人民日報(海外版)」日本月刊の7月号が置いてあったので、もらってきた。
「人民日報(海外版)」など、普段は手にする機会はない。どんな内容なのか、少しだけ気になる。

表紙には「特別インタビュー」の代々木ウィルクリニックの太田剛志院長の写真が載っている。がんスクリーニング検査分野で、一回の採血でがんを発見し、早期治療の可能性を拓く画期的な検査手法の普及に取り組んでいるとか。
冒頭記事は「習近平の足跡」で「中国経済の焦点」をテーマにした「新たな質の生産力で、協力の新章開く」である。その他「中国市場の現場」(中国のAI清掃ロボットが欧州市場に進出)などの記事が掲載されている。
「協力の新章開く」などの表現は、日本ではあまり見かけない、いかにも中国的な言葉遣いということか。習近平総書記が河南省視察時に強調したのが「中原の大地に中国式現代化推進の新たな章を全力で記すべき」との記事の「新たなる一章」ということである。なるほど。

そんな中、同誌には「寄稿」欄が設けられていて「アジアの眼(87)」に「キャベツを描く九州派の巨匠」として「103歳の現役作家斎藤秀三郎」(文/洪欣)との記事が掲載されていた。
筆者の洪欣(ホンシン)氏は、レポートの末尾に写真入りのプロフィールが載っている妙齢の女性である。「東京大学大学院経済研究科博士過程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン過程の修士号取得。その後、パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人」とある。
103歳の現役画家には驚くが、なぜキャベツなのか?

九州派と文明キャベツ
洪欣氏のレポートを読めば、その理由に関して、次のように書いてある。「日常生活の中で良く見かけるキャベツは、形として赤ちゃんの頭に似ており、文様はむき出しの血管のように見えるという。そして、キャベツは命の生まれる形である同時に、守るべき形にも思えるのだという」
そのキャベツと様々な異物との組み合わせを通して「重い」テーマを表現しているような、どこか勇ましささえ感じさせると記している。
画伯の発言では「大きな葉が命を包むように、一枚一枚が重なりあって、大きな玉になっている姿には、ユーモアさえ感じた。そして、何より、あの大小の葉脈は、キャベツを血管むき出しの生き物のように変え、まるで現代科学の飽くなき探究にさらされた命の象徴に見える」と紹介。「文明キャベツ」のタイトルで展示を続けているとのことである。
キャベツの様々な姿・形から見えてくる可能性は、103歳の画家が見つけたものであり、その「文明キャベツ」の数々を見ていれば、命を通して、人間と社会など、キャベツの本質(?)が浮き彫りになってくるようである。
現役の齋藤秀三郎画伯は1922年、宮崎県西都市に生まれた。
もともとは、小学4年のときに、担任の先生から絵を誉められたことが、その美術の原点ということだが、戦時下の1944年、海軍飛行専修予備生徒に志願して三重海軍予備隊に入隊。翌1945年に終戦を迎えた。
帰省後、旧姓・第七高等学校・理科に入学し、1952年に旧姓・九州大学農学部水産学科を卒業。福岡市の姪浜中学校で理科を教える。そこで、かつて総理大臣賞を受賞したことがある美術教師と出会ったことから、再び美術への情熱が蘇ったというものだ。
画伯に冠せられた画家集団「九州派」とは、寡聞にして初めて聞く表現だが、1950年代から60年代にかけて、「独立」「自立」を掲げ、いわゆる無審査・無賞・自由出品を原則とする美術展「アンダパンダン展」から派生し、九州を拠点に活動した前衛芸術グループということである。
九州・三池闘争、朝鮮戦争に刺激を受けて誕生したとの時代的な背景もあるようで、反東京、反芸術などを謳っていたようである。
そこには、当然ながら彼が生きてきた戦中・戦後の人生が大きな要素となっている。

かたつむりを描く画家
「ウエルネス@タイムス」編集室に定期的に届く案内の中に、10月は新潟美術学園ギャラリーで開催される同学園講師・中沢鮎子さんの「中沢鮎子個展」の葉書があった。
昆虫の絵などが好きだったという彼女の絵の特徴は、かたつむりそのものを描いた作品もあるが、その他、様々なまったくかたつむりとは関係ないと思われる絵にも、必ずどこかにかたつむりが隠れているという趣向で、一貫している。
探してもわからないことも多いため、作品脇にある「答え合わせ」のカードをめくるとかたつむりの潜んでいる場所が表示されている。子どもにも楽しい絵となっている。
かたつむりとキャベツは微妙に異なるが、一つのものを描きつづけるという意味では、画家の姿勢は似ている。彼女の個展に行った際に、雑誌のコピーを持って、103歳の現役画家を知っているかを聞いてみた。
当然、知らない。筆者に身辺整理の際、未完の小説『死霊』で有名な埴谷雄高の著作集や評論家・吉本隆明氏の本などを送ってくれた前・学園長の長谷川朝子さんなら、案外知っているようにも思うが、まだ若い彼女との接点は、特にないということか。
しかし、世の中は広いようで狭い、狭いようで広い。つまりは知らなくても、一向に困ることはないが、それでも知ってしまえば、それは周りが知らない知識を得られると同時に、それ以上のものを、実は得ているのではないかと、そんなことも考えさせられた。
それは103年を生きた画家の生涯のホンの断片に触れるチャンスを得ることができる幸せ、知識のおすそ分けとの気分である。








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