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「原子力イノベーションセミナー」に行ってみた!  核兵器にならない、平和な時代の原子炉「トリウム溶融塩炉」の80年

「原子力イノベーションセミナー」に行ってみた!

 核兵器にならない、平和な時代の原子炉「トリウム溶融塩炉」の80年


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 「すごい!」に決まっている

 2025年8月21日、第一議員会館地下にある大ホールで開催された「原子力イノベーションセミナー」に行ってきた。

 昨年7月、東京・日比谷で行われた研究報告会「放射性廃棄物大深度完全密閉方式(研究報告)」に参加した縁により、案内が届いていたからである。

 原子力+イノベーションともなれば「すごい」に決まっている。だが、フェイク情報に限らず、言葉が薄っぺらに扱われる時代に、言うのは勝手である。正直、さほど期待していなかった。

 だが、最初に結論を述べれば、参加してみての感想は「エッ、こんなすごい技術が、何でいままでメディアで取り上げられていなかったの?」というものだ。

 そもそも、届いていた案内には、次のように書かれていた。

「この一年で、世界的にデータセンターの電力需要が急増し、日本でも安定供給と脱炭素の両立をねらう制度が動き出し、新型炉の実証や長期運転に道筋が見え始めています。海外ではIT大手による原子力電力の長期契約や、発電所近接型データセンター計画が広がり、米国や中国でも先進炉の運用や実証が進展しています」

 要は、原子力+イノベーションとは新型炉のことのようだが、トリウム溶融塩炉の「ようゆうえんろ」は早口ことばに使えそうな言いにくさである。何度言ってもつっかえる。

その言いにくさが、そのままトリウム溶融塩炉の本質・価値の伝わりにくさを象徴しているかのようではないか。

 だが、地球温暖化と密接に関係するエネルギー問題は、戦争の絶えない世界の重要な課題である。

 改めて、戦後日本の平和と同じ80年の歴史を持つトリウム溶融塩炉とは何なのか?

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 原子力イノベーションセミナー

 その日、午後2時から5時まで、3時間に及ぶセミナーは主催の「原子力革新研究会」原田義昭会長(元環境大臣)の開会挨拶から始まった。

 講演1は、古川和朗(株式会社トリウムテックソリューション)取締役副社長の「トリ

ウムとはどんな原子炉か?」。

 講演2は、木下幹康(NPOトリウム溶融塩国際フォーラム)理事長の「溶融塩炉開発の行くべき道と私たちの活動状況」。

 講演3は、古川雅章(株式会社トリウムテックソリューション)代表取締役社長の「日本の開発戦略の提案」。

 講演4は、原田義昭会長の「核ゴミに大深度完全密閉方式を」である。

 途中、国会を抜け出して駆けつけた片山さつき参議院議員が、来賓のあつさつとともに「トリウム溶融塩炉を応援していきたい」と原田会長へのエールを送っていた。

 セミナーは冒頭、原田会長が、今回のセミナーの内容とポイントを解説。日本発「原発安全革命」と称する理由を、トリウム溶融塩炉が固形燃料ではなく、液体燃料による安全な技術であり、危険を回避するための技術や装置などの必要がないことから経済性に優れており、その結果、電力コストがケタ違いに低いことなど、溶融塩炉の利点をかい摘んで説明していた。

 原田会長は2008年に、アメリカから日本に帰国したトリウム溶融塩炉研究の第一人者・古川和男博士に出会ったことにより「日本のエネルギー問題を解決するには、これしかない」と確信。その普及に尽力してきた。

 当日、会場で配られた「『トリウム溶融塩炉』が日本の電力問題を解決します!」と、表紙に書かれた資料には、トリウム溶融塩炉の特徴として、1.原理的な安全性を持つ。

2.スリーマイル島、チェルノブイリ、福島のような事故は原理的に起こらない。3.核廃棄物問題が少ない。4.構造が単純で、安全対策、廃棄物対策にもコストがかからないので、圧倒的な低コストでの電力供給が可能である。5.トリウムを燃料としているためプルトニウムを作らない。また、プルトニウムを燃焼消滅することができる。世界からプルトニウムを無くし核兵器のない世界の実現に向けた第一歩になる、という優れた特徴を持つ次世代型原子炉です」と記されている。

 まさに、いいことずくめである。その理想的な原子炉が、なぜ普及しないのか?

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 兵器にならないトリウム溶融塩炉

 冒頭「何でいままでメディアで取り上げられていなかったの?」と書いているが、正確には古川和男博士が2001年に、著書『「原発」革命』(文春新書)を出版。3・11福島原発事故の後、増補新版の『原発安全革命』(同)を出している。

 当時、注目すべき技術として紹介している「日経新聞」の記事もある。その技術及び内容は、いまなお有効である。

「緊急増補出版」とある本の帯にも「全く発想の違う『液体』『トリウム』『小型』この原発なら福島もチェルノブイリも起きなかった!」と書かれている。

 というのも、他の原子炉はすべて固体燃料を用いているのに対して、トリウム溶融塩炉は液体燃料のため、炉心に燃料棒もなく、それだけ構造が単純であり、もちろん燃料棒の交換などもない。従って原発事故後のメルトダウンも燃料棒の取り出しも、原理的にあり得ない。プルトニウムをつくらないため、核廃棄物の再処理工場も必要ない。

 なぜ、そんな安全で小型の原子炉(トリウム溶融塩炉)が普及しなかったのかは、皮肉なことに、ウランを使わないため、プルトニウムをつくらず核兵器に利用できない技術だったからだ。

 次世代型原子炉であるとわかっていても、核兵器開発が優先された時代に、安全な原子炉などナンセンスな研究・開発として後回しにされたわけである。

 同時に、日本の原子力はすべて米国で完成した軽水炉の技術を基本にしてきたため、原子力の専門家がすべて軽水炉の専門家との事情もある。他の原子炉とは根本的に技術基盤が異なるトリウム溶融塩炉の専門家及び理解者がいなかったことも、国の支援を得られなかった一因となってきたとか。

 もし、それが本当なら、ただの専門バカである。

 だが、その影響は大きく、いまも2011年の3・11東日本大震災時の福島原発事故

によって、原子力エネルギー自体に「逆風が吹いてしまった」と、講演でもトリウム溶融塩炉の内容以前に「原子力」並びに「原子炉」へのアレルギーによる展開の難しさが語られていた。

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 平和の時代の原子炉とは?

 もともと原子炉は、原爆燃料のプルトニウムを生産し、核武装するためにつくられたものである。

 一方、トリウム溶融塩炉は第二次世界大戦が終わって、平和の時代が来ると考えた物理学者のユージン・ウィグナー博士とアルビン・ワインバーグ博士によって、戦争のためではなく、平和の時代の原子炉とはどうあるべきかとの考え方のもとに開発が進められた。

 ウィグナー博士は「原子核と素粒子の理論における対称性の発見」により、1963年にノーベル賞を受賞。ワインバーグ博士は「オークリッジ国立研究所」の所長に就任。1945年、液体型燃料原子炉の構想を発表した。オークリッジ国立研究所におけるワインバーグ博士の指導によって、1965年に「溶融塩炉実験炉」の基礎技術が確立された。

 ところが、1976年、米国ではトリウム溶融塩炉は「軍事的価値がない」との理由で開発が中止となった。その後を引き継いだ古川博士は、オークリッジ国立研究所が大型増殖炉を目標としたのに対して、徹底した単純化、小型化を図り、1985年に「小型トリウム溶融塩発電炉『FUJI』」を発表した。

 その後、2011年に中国が国家としてのトリウム溶融塩炉開発プロジェクトをスタートさせた。同時に、一時は開発を中止した米国をはじめ、世界中で国家の支援を受けたトリウム溶融塩炉の開発が行われている。

 2015年ごろ、米国ではトリウム溶融塩炉開発のブームが起こり、多くのベンチャー企業が生まれている。どこもみな2030年初頭における商品化に向けて、開発が進んでいるという。

 だが、米国での一時中断の影響は大きく、米国での開発自体が苦戦を強いられている中、「中国は10年先を行っている」と、NPO「トリウム溶融塩国際フォーラム」の木下幹康理事長は語っている。

 その中国が先行できたのは、古川博士が技術協力したためである。それは、日本での展開が進まないことと、中国からの熱烈なアプローチを受けて「平和のため、人類のため」には、早く世に出す必要があるとの判断があってのことである。

 中国への技術協力を批判する向きもあるというが、それはトリウム溶融塩炉に限ったことではない。もちろん、中国には古川博士の思いなどは通用しない。

 だが、現実問題として、開発の遅れを取り戻すには、日本は米国と協力して取り組んでいくしかないというのが、セミナーの結論のようである。日本独自では、お金も時間もかかりすぎて、競争に乗り遅れるからである。

 セミナーの最後は質疑応答に時間が割かれたが、最後の質問は、最初の研究会から参加しているというメンバーからのものであった。

 彼は関係者に代わって、なぜこれだけのいいものを、国は推進しないのか。そしてメディアが取り上げようとしないのかと、切々と訴えていた。

 筆者自身、長年生きてきて、少しは世の中をわかっているようで、案外わかっていないものだと自らの無知を痛感した。世界は広い。

 同時に、一冊の本を読み、講演を聞き、セミナーに出て、その本質を理解したつもりでも、良いものが必ずしも、プラン通り実現するとは限らない。様々な事情や思惑などが絡んで、多くの画期的な研究成果、画期的なベンチャーの技術が、まさに画期的があるゆえに、既存の技術、既得権益、経済システムなどとの整合性もあって、失墜する。

 よくあるベンチャーの悲劇とはいえ、そんなことがいつまでも続いていいわけがない。

「平和のための原子炉」というトリウム溶融塩炉が注目される所以である。

 
 
 

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